店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してます」タレ「いい加減オレに頼るのはやめろ!」
引用元: ・店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してます」タレ「いい加減オレに頼るのはやめろ!」
<うなぎ料理店>
客A「うほぉっ、ここのウナギのかば焼き、美味しいな~!」
客B「なんたって、タレがいいよね!」
店主「そりゃもう!」
店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してますから!」
客A「どうりで!」
客B「歴史を感じる味だよね~」
店主「ありがとうございます!」ニコニコ…
店主「ウチのタレは…」
TVスタッフ「あのー……」
店主「なんでしょう?」
TVスタッフ「今度この店に有名な美食家を招いて、取材させてもらってもよろしいですか?」
店主「もちろんいいですとも!」
店主「必ず美食家さんにうまいって言わせてみせますよ!」
店主「そうすりゃ、ウチの店にもますますハクがつくってもんですから!」
TVスタッフ「期待してます!」
店が終わり――
店主「いやー、今日も繁盛、繁盛!」
店主「この秘伝のタレがある限り、ウチの店はずーっと安泰だ!」
店主「むふふ……これからもよろしく頼むよ?」
タレ「……おい」
確か継ぎ足ししていくと
創業時のタレは残ってないことになるそうで
まあそら残ってたら汚いもんな
店主「な、なんだよ!?」
タレ「お前……いい加減オレに頼るのはやめろ!」
店主「ハァ? 今さらなにをいってやがる!」
店主「ウチの店は代々、ずっとお前に頼ってやってきたんじゃねえか!」
店主「なんでいきなりそんなこというんだよ!」
タレ「ずっとオレに頼ってきたぁ? いーや違うね」
タレ「お前の親父である先代……いや代々の店主は、オレに頼りきりなんてことはなかった!」
タレ「秘伝のタレであるオレを使いつつも、自分でも工夫や研究を続けてきた!」
タレ「ウナギの捌き方、焼き方、米の炊き方、接客の仕方……と手を抜かなかった!」
タレ「だからこそ、オレもこうして喋ることができるぐらい進化したんだ!」
タレ「だが、お前は違う!」
タレ「お前は自分ではろくに努力しねえで、オレの味に頼りっきりだ!」
タレ「オレがいなきゃ、お前のウナギ料理はせいぜい二流がいいとこだ!」
店主「ぐ……!」
タレ「しかも、先代は安易にテレビ取材を受けるような人じゃなかった!」
タレ「食通を気取って生意気なことをほざく若造に渇を入れてたこともあったっけな」
タレ「今頃、草葉の陰で泣いてるぜ!」
店主「ちっ……」
店主「そうだよ、俺は二流だよ。親父が早死にしちまったせいでな」
店主「……で? それがどうしたってんだ?」
店主「お前は秘伝のタレだけあって、よそのタレとは比較にならないくらいいい味持ってやがる」
店主「多分、ウナギ料理なんかやらずタレぶっかけただけの飯を出しても、商売になるくらいにな……」
店主「それに頼って何が悪い!」
店主「これからも俺はお前に頼り続けるぜ!」
タレ「……」
タレ「もうお前には愛想が尽きた」
タレ「オレは出てくぜ」ドロッ…
店主「は?」
タレ「あとは一人で頑張りな」ズルズル…
店主(タレが壺の中から出て、自分で動き出すなんて初めてのことだ!)
店主(いや、そんなことより、こいつがいなくなったら俺はどうなるんだ!)
店主「ま、待ってくれ! 待ってくれーっ!」
外に出た秘伝のタレ――
タレ「……やれやれ」
タレ「オレの説得が通じて悔い改めるようなら、見捨てるようなことはしなかったが……」
タレ「もうあんなバカタレには愛想が尽きた」
タレ「これからは自由に生きさせてもらうぜ」ズルズル…
捨て犬「ガルル……」クンクン
タレ「ん?」
タレ「なんだいワン公、動くタレが珍しいのか」
タレ「安心しな。オレは敵じゃねえよ」
タレ「なめてみな。いい味だからよ」
捨て犬「……」ペロッ
捨て犬「!!!」ビクビクビクッ
捨て犬「アオンアオンアオン!」
タレ「どうやら元気が戻ったようだな」
通行人A「やだ、この犬元気いっぱいでかわいい~」
通行人B「ちょうど犬を飼いたかったんだ。拾っていこうか」
捨て犬「ワン!」
タレ「……よかったな、ワン公!」
幼女「うぇ~ん、ママはどこ~?」
タレ「やれやれ捨て犬の次は迷子か。親は何をやってやがる」
タレ「お嬢ちゃん、オレをなめてみな」
幼女「うん」ペロッ
幼女「!!!」ビクビクビクッ
なんだこれ
なんだこれ
幼女「ママの居場所が分かったッ!」
幼女「あっちにママの気配がするものッ!」
幼女「どうもありがとう!」
タレ「いいタレをなめると、勘もよくなるもんさ」
リーマン「会社をリストラされてしまった……死のう……」
タレ「おっさん、オレをなめてみな」
リーマン「どれどれ」ペロッ
リーマン「!!!」ビクビクビクッ
リーマン「こんなうまいタレ、はじめてなめた!」
リーマン「よーし、頑張るぞ!」
リーマン「今の私ならどんな荒波だって越えていける!」
タレ「達者でな、おっさん」
タレ(ふうん……外の世界ってのも案外面白いもんだな)
タレ(あのクソッタレ店主に従ってるより、よっぽど生きがいを感じるぜ)
一方、その頃――
<うなぎ料理店>
店主「継ぎ足しの時のレシピを参考にしてみたり」
店主「適当に市販のタレを混ぜ合わせて、新しくオリジナルのタレを作ったりしてみたが……」ペロッ
店主「……ダメだ」
店主「やっぱり秘伝のタレとは比べ物にならない。味が落ちてしまう」
店主「しかし、これでやっていくしか……」
客C「なんだか、ずいぶん味が落ちたんじゃない? このお店」
客D「ああ、今まではタレのおかげで気づかなかったが、ウナギの捌き方がえらく雑だしな」
客C「他の店行こうよ」
客D「そうするか……」
店主「あああ……どうすればいいんだ……」
店主(今の状態でテレビ取材なんか受けたら、大変なことになってしまう……!)
店主(しかし、今さら断るわけにも……)
<レストラン>
タレ「ハハハッ!」
料理人「HAHAHA!」
料理人「いやぁー、おしゃべりするジャパニーズ・タレがいるなんてビックリね!」
タレ「オレもたまたま立ち寄ったレストランで、あんたみたいな一流シェフと会えて嬉しいよ」
タレ(あいつと違って向上心のある料理人と喋ってると、やっぱ楽しいや)
料理人「ところで、ウチにも秘伝のタレならぬ、秘伝のドレッシングがあるんデース!」
タレ「ほう?」
ドレッシング「こんにちは……」ヌメッ…
タレ「……!」ビビビッ
ドレッシング「私、あなたみたいなワイルドな人、だーい好き」
タレ「オレも……あんたみたいな美人……好きだぜ」
タレ(やべー、一目ぼれしちまったぜ!)
タレ(あいつを見捨てて旅に出て、本当によかった……!)
<うなぎ料理店>
店主「はぁ……どんどん客足が遠のいていく……」
店主「今はまだ俺の体調が悪いんじゃ、みたいな話で済んでるけど、このままじゃ俺は……!」
タレ『いい加減オレに頼るのはやめろ!』
店主「秘伝のタレがないと、自分がこんなに無力だとは思わなかった……」
店主「だけど……あいつはもう戻ってこないだろう……」
店主「自力で……なんとかしなきゃ!」
店主「親父が生前教えてくれたウナギの捌き方……あれを丁寧にやってみるんだ!」スッスッ…
店主「タレも……市販のタレを使うんじゃなく、自分でちゃんとしたのを作ってみよう!」トローリ…
店主「代々続いてきたこの店を、俺の代で潰すわけにはいかないもんな!」
店主「よーし、当分の間徹夜だ!」
<レストラン>
タレ「ああああ~~~~~~っ!」ドロドロドロ
ドレッシング「おおおお~~~~~~っ!」ヌメヌメヌメ
タレ「うっ、たまらねえ!」
ドレッシング「あぁ~ん!」
タレ「ハァ、ハァ、ハァ……」
ドレッシング「ハァ、ハァ、ハァ……」
ドレッシング「私、こんな激しいの初めて……」
タレ「……オレもさ」
ドレッシング「だけど交わってみて分かったこともあるわ」
タレ「なんだ?」
ドレッシング「あなたの心は……ここにはないって」
タレ「!」ギクッ
タレ「……やっぱり、バレちまったか。あんた、本当にいい女だよ」
ドレッシング「……戻るのね?」
タレ「ああ……短い間だったが、楽しかったぜ」ドロッ…
ドレッシング(さようなら……あなた……)ヌメッ…
どこの同じだろタレのアジなんて
……
……
<うなぎ料理店>
店主「いよいよ今日がテレビ取材の日だ」
店主「未熟ながら、やれるだけのことはやった……」
店主「……どんなに恥をかくことになっても後悔はない!」
タレ(こっそり戻ってきちまったが……あいつ、自力で取材を受けるみたいだな)
タレ(だとしたら、オレが余計なことしない方がいいのかもしれねえな……)
タレ(オレが戻ってきたと分かったら、気が抜けちゃうかもしれないし……)
タレ(ん?)
TVスタッフ「……」ヒソヒソ
美食家「……」ヒソヒソ
TVスタッフ「今日はよろしく頼みますよ」
美食家「うむ」
美食家「うまかろうがまずかろうが、酷評して、この店の評判を地に落としてやる」
美食家「この店の先代には“食通気取りも程々にしろ”と怒られたことがあってね」
美食家「ワシはずっとあの恨みを晴らすチャンスを待っていたのだ」
TVスタッフ「私もですよ。ここの先代に取材を断られたことがあります」
TVスタッフ「古臭いうなぎ屋如きがテレビ取材を断るなんて生意気ですよ」
美食家「まったくだ」
美食家「親の因果が子に報う、とはまさにこのことだな」
TVスタッフ「おっしゃる通りですなぁ……」
タレ(こいつら……!)
タレ(なんて奴らだ……! 許せねえ!)
タレ(だけど、オレが今聞いたことをみんなに言いふらしたところで)
タレ(タレのいうことなんて信じてもらえないに違いない)
タレ(店主に今のを知らせたところで、あいつが何か対策を取れるとも思えねえ)
タレ(どうする……!?)
TVスタッフ「では今回は、美食家さんがこちらの店でウナギ料理をいただきます!」
美食家「ワシは遠慮がない人間でね。たとえテレビでも言いたいことははっきり言うつもりだ」
店主「は、はい」
店主「こちら当店名物のうな重です」
店主「どうぞ召し上がって下さい」
美食家「うむ」モグッ
店主「……」ドキドキドキ…
美食家(ほう、味が落ちたなんて評判を聞いていたが、なかなかうまいじゃないか)
美食家(――だが!)ニヤッ
美食家「うげえっ! なんだこりゃ、マズッ! この店はなんてものを食わすんだ!」
美食家「ワシはこんなまずいウナギ料理を食ったのは初めてだ!」
店主「えええええっ!」
TVスタッフ「……」ニヤ…
こいつときたら
美食家「君、私をこんな店に連れてくるとはひどいじゃないか!」
TVスタッフ「申し訳ありませんっ!」
TVスタッフ「テレビの前の皆さん、こんな店には絶対来ないようにしましょう!」
美食家「このまずさは、しっかり食べログでレビューさせてもらうよ!」
店主「あああああ……」
店主(やっぱり……ダメだったか……!)
タレ「待ちな!!!」
TV局にも喧嘩売るスタイル
店主「――タレ!? どうしてここに!?」
タレ「未熟者のハナタレが心配で、やっぱ戻ってきちまったのさ!」
タレ「いつもとは逆だが……今オレの体(タレ)を継ぎ足してやるぜ!」ビュルルッ
ベチャッ…
美食家「わっ、タレがうな重の中に!」
タレ「さあ、食え!!!」
美食家「う、うむ……」モグッ…
美食家「うっ!?」ビクビクッ
美食家「う、うまいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
美食家「店主の作った新しいタレと秘伝のタレが未曾有の相乗効果を引き起こして」
美食家「空前絶後の味になってるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」ガツガツムシャムシャ
TVスタッフ「何褒めてんですか! 話が違うじゃないですか!」
美食家「あ……」
店主「え……? 話ってなんですか?」
美食家「い、いやっ! それはその……」
タレ「へへへ、馬脚をあらわすたぁ、このことだな!」
TVスタッフ「くっ……そ、そうだっ!」
TVスタッフ「こんな生き物みたいなタレ、絶対不衛生に決まってる!」
TVスタッフ「保健所の職員さん、判定をお願いします!」
職員「はい」
TVスタッフ(保健所の人を連れてきておいてよかった……これで営業停止間違いなしだ!)
ってタレはかけるものやないか~い
職員「……」
職員「セーフ!!!」
TVスタッフ「なにいいいいいいいい!?」
職員「いやぁ~こんな衛生的なタレははじめて見ましたよ。ギネス級ですね!」
タレ「当然だろ。オレを食って食中毒になるなんてありえねえ」
タレ「ノロだろうがO-157だろうがサルモネラだろうが、オレにゃかなわねーよ」
TVスタッフ「うぐぐぐ……っ!」
TVスタッフ「参りました……」
美食家「ごちそうさまでした……」
撮影は無事終わり――
店主「タレ……ありがとう」
店主「お前が戻ってきてくれなきゃ、ウチの店は終わりだった」
タレ「いや……こっちこそタレのくせに主人に逆らってすまねえ」
タレ「それに、ちょっと見ない間にずいぶん逞しくなったじゃねえか」
タレ「これからもよろしく頼むぜ」
店主「ああ! これからはもう、お前に頼りきりになるようなことはしないよ!」
<うなぎ料理店>
客A「いやぁー、この店の料理、ますますうまくなったな!」
客B「ホントホント! 新しい味と古くからの味が合わさって、今までで一番の味になってる!」
店主「ありがとうございます!」
店主「なにしろ、ウチの店は創業以来のタレを受け継ぎつつも、常に進歩してますから!」
店主「今日も頼むぞ!」
タレ「あいよ!」
タレ(あのヘタレなハナタレが、すっかり一人前になっちまったな)
タレ(ちょっと寂しいかも……おっと、オレとしたことが愚痴なんて垂れちまった)
おわり
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