――どうして何も話してくれないの。
答えを言おう。話せないからだ。俺は話すのが苦手なんだ。
決して口を開かない木彫りの仏像のように、切られて死んだ木を彫って作られたのが俺なのだ。
想像してみてほしい。小さいころから怒鳴られ続け、一切の感情を箱に詰めて中身を見られないよう見られないよう生きてきた人間が、今更どうして箱の開け方を知っているというのだ？
階段を下りながら箱の中身を想像する。これは俺だけが見ていいおもちゃ箱なんだ。

屋根の下から身をさらせば一瞬でぬれねずみだ。傘のない帰り道はひどく冷たい。
まっくらな空から降ってきて、針のように身に突き刺さるが、それでも半ばやけになってからだを滴が削るに任せる。
冷たい針が肉を食んで身中に浸透し、心に突き刺さった。
死んだ顔をして歩道を歩く。こちこちと。愚かしく。
ひどくこっけいだった。顔を伝う滴が涙の代わりだと言わんばかりだ。
泣けないのだ。あれだけのことがあっても男の矜持が邪魔をする、それを雨に涙の役回りを肩代わりしてもらっている。
涙は心の中の黒いものを体外に運び出すためのものなのだから、ただ水滴が体表を舐めるだけでは何の意味もない、
だがそんなことはどうでもいい。雲が気まぐれに落とすシャワーの中で、心を洗う。頭の芯に拍動と同期する痛みを感じるが、少しは気持ちいい。