少年「狼が出たぞー!誰も助けにこない・・・狙い通りだッ!」
引用元: ・少年「狼が出たぞー! 誰も助けにこない……狙い通りだッ!」
少年「うわーっ! 大変だーっ!」
少年「狼が出たぞーっ! ぼくが飼ってる羊たちが食べられちゃうよぉ!」
村人A「なんだって!?」
村人B「助けにきたぞ!」
村人C「狼はどこだ!?」
少年「へへへ、嘘だよー!」
村人A「……また嘘か!」
村人B「まったく人騒がせな!」
村人C「いい加減にしろ! これで何回目だと思ってる!」
少年(……よし)
少年「狼が出たぞー!」
少年「狼が出たぞーっ!!!」
シーン……
少年(今日は誰も助けにこない……狙い通りだッ!)
狼「お呼びでしょうか、マスター」
少年「行けっ!我が下僕よ!」
少年「さ、始めようか……狼(ウルフ)諸君!」
狼A「ガルルル……」
狼B「グルルル……」
狼C「ウウウ……」
少年「君たちがどんなに暴れようが余計な邪魔は入らない! 遠慮せずかかってくるがいい!」
狼A「ガアアアアッ!」バッ
少年「遅いッ!」
ザクッ!
少年の放った貫き手が、狼の喉に鮮やかに突き刺さった。
狼A「ゲボァッ……!」ドサッ
狼B「グアァァァッ!」
少年「ハァッ!」ブンッ
ガゴォッ!
飛びかかる狼の顎にアッパーカットが炸裂。
少年「シィィッ!」グオオッ
メキィッ!
狼C「グハァッ!」
回し蹴りが、狼の意識を刈り取る。
白狼「グルルル……」
少年「君が狼たちのボスか。へえ、白くてキレイだね」
白狼「よくも仲間たちを……」
少年「ほう、しゃべれるのか……さすがだね」
少年「安心してよ。狼たちは殺しちゃいないよ。峰打ちってやつだ」
白狼「なにっ!」
少年「準備運動で殺しをするほど、血に飢えちゃいないんでね」
白狼「我々が“準備運動”だとぉ!?」
白狼「なめるなァッ!!!」
白狼は恐るべき脚力で少年に接近すると、鋭い爪を少年の首めがけ振り下ろす。
ザシッ……!
白狼「ちっ、わずかに外れたか!」
少年「すごい速さだね……もう数ミリ傷が深かったら危なかった」
白狼「人間の脚力では我には追いつけぬ。降伏しろ」
少年「やなこった!」
白狼「ならば……血にまみれて息絶えるがよい!」
白狼「ゆくぞっ!」
少年「ダアッ!」
少年がローキックを放つ。
ヒットすれば、狼の脚力を幾分か封じることができる。
スピードタイプの相手を攻略するには、大正解といえる選択である。
だが――
白狼「正直すぎるわッ!」バッ
白狼は跳躍して、ローキックをかわした。
少年「へへへ……嘘だよ」
白狼「!?」
ギュオッ!
少年のローキックは、軌道を変え、ハイキックへと変化し――
ズギャアッ!
空中にいる白狼の頭部をとらえた。
白狼(ふ、不覚……ッ!)
ドザッ……
地面に崩れ落ちた白狼の前に正座する少年。
少年「……」
少年「ぼくと戦ってくれて、どうもありがとう」
白狼「いや……こうまで完敗すると、かえって清々しい気分だよ」
少年「部下の狼たちを治療したら、山に帰してあげる」
白狼「お前は……どうするのだ?」
少年「知れたこと――」
少年「全ての羊飼いにとっての宿敵――最強の羊に挑戦する!」
白狼「な、なんだと!?」
白狼「やめておけ!」
白狼「ヤツは人間以上の知能を持ち、ライオンやトラをも軽々捕食する最凶最悪の羊だ!」
白狼「あまりにも強すぎるので決して死なない殺せないと恐れられ」
白狼「“死不(シープ)”の異名を欲しいままにしてることは知っているだろう!」
白狼「我もヤツにだけは手を出さなかったから、言葉を話せるようになるまで生き延びられたのだ!」
少年「もちろん知ってるよ……」
少年「だって、ぼくの父さんは……ぼくの目の前で“死不”に殺されたんだもの」
白狼「!!!」
少年「あ、だからって勘違いしないでね?」
少年「お父さんの仇討ちのつもりなんてさらさらないから」
少年「お父さんは一人の羊飼いとして、“死不”に挑み、死んだんだ」
少年「仇討ちなんていったら、お父さんあの世で怒っちゃうよ」
白狼「……」
白狼「止めても無駄なようだな」
少年「うん……ごめんね」
白狼「ならば、ヤツの住む山までは背中に乗せて運んでいってやろう」
白狼「その方が体力を消耗せずに済むだろうからな」
少年「……ありがとう」
白狼「ただし、“死不”打倒の手助けはできんぞ」
白狼「我もまだ死にたくはないからな……」
少年「分かってる! “死不”とはぼく一人で戦う!」
白狼「それじゃ、我に乗るがいい」
少年「うん!」
狼A「クゥ~ン……」
狼B「ガルル……」
狼C「アオ~ン……」
白狼「みんな、お前を心配してくれている」
少年「ありがとう……必ず“死不”を倒してくるよ!」
白狼「いくぞ! しっかり掴まっていろ!」
ドヒュンッ!
……
……
白狼「ここが“死不”が住む山だ」
少年「ひどい……兵隊や動物の死体が散乱してる」
白狼「“死不”にやられたのだろう」
白狼「ヤツはとどまることを知らない食欲と闘争本能で、殺戮を繰り返している」
白狼「もはや羊飼いにとってだけでない……全生物にとって宿敵なのだ!」
「おやおや……人聞きの悪いことをいってくれますねえ」
「いや……私がいうのだから羊聞きが悪い、かな?」
少年「!」ゾクッ
白狼「!」ゾクッ
少年「この声……」
白狼「まさか……!?」
羊「こんにちは、“死不”の名で知られている羊とは私のことです」
白狼(いつの間に……!? 我としたことが接近に気づかなかった……!)ドクッドクッ
少年(なんて殺気……! 一瞬、自分がもうあの世にいるのかと錯覚してしまった!)ドクッドクッ
羊「どうやらあなたたち、私に挑戦しにきたようですが」
羊「さて、どちらから来ます? それとも二人がかりかな?」
少年「戦うのはぼくだけだ!」バッ
白狼「うむ……我はまだ死にたくはないのでな」
羊「ふふふ、いいでしょう……かかってきなさい」
羊「……」
少年「?」
羊「ところで、あなた……どこかで見たことがあるような……」
少年「覚えていたか! ぼくは5年前、お前に殺された羊飼いの息子だ!」
羊「ああ……あの時の……思い出しましたよ」
羊「あれはたしか、私が近隣の村々から美女の生贄を要求していた頃……」
羊「羊飼いとしてお前は許せん、と無謀にも私に挑み――」
羊「あっけなく敗れ去り、最後は息子だけは助けてくれ、と命乞いしてましたっけ」
羊「いやぁ~……あそこまで惨めな人間はそうはいませんよ。だからよく覚えています」
少年「……!」
少年「お前ぇ~……!」ビキビキッ
白狼「挑発だ、乗るな!」
少年「うおおおおおおおおおおおっ!」ダッ
羊「はい、カウンターでいっちょあが――」ビュオッ
凶悪な速度で繰り出された羊のヒヅメを、少年はかわした。
少年「へへへ……嘘だよ!」
羊「!?」
白狼(うまい! 挑発に乗ったふりをしてたのか!)
少年「スキだらけだ!」
ズドドドドッ! ドドドッ!
羊のボディに鋭さと重さを兼ね備えた連撃が叩き込まれる。
白狼「や、やったっ!」
羊「危ない、危ない……」
少年「……!」
少年(あまり効いてない……!?)
羊「私のボディを包む、このもこもこ毛皮……こいつのおかげで助かりましたよ」
少年「ぐっ……! 衝撃が吸収されたのか……!」
羊「しかしながら、あなたの嘘には騙されてしまいましたよ」
羊「……嘘つき少年にはオシオキしてあげませんとねえ!」
羊「芽ェッ!」
ドゴッ!
羊「芽ェェェッッ!」
ズガァッ!
数え切れぬほどの生命を屠ってきた強力なヒヅメ攻撃が、少年の全身を打ち抜く。
少年「が、がは……っ!」ヨロヨロ…
白狼「少年!」
羊「さて、トドメといきましょうか!」バッ
羊が空高く飛び上がる。
羊「いきなさい……永久の弩李異夢(ドリーム)へ!」
ズギャアッ!!!
羊のヒヅメが、少年の脳天を打った。
少年「羊が一匹……羊が二匹……」
羊「脳を破壊しました……羊を数えながら安らかに逝きなさい」スタッ
白狼(終わった……! やはり子供が勝てる相手ではなかった……!)
羊「さて、あなたですが……」
白狼「!」ビクッ
羊「見逃してあげましょう。この少年の突きで多少ダメージを受けてしまいましたしね」
白狼(助かった……)ホッ
白狼「!」ハッ
少年「羊が八匹……羊が九匹……羊がじゅう……う、う、う……」
少年(お父さんの戦いを見てたおかげで、わずかに急所を外すことができた……)
少年(これが最後のチャンス!)
少年「――嘘だよッ!!!」
少年は羊の背後から、蹴りを放った。
ギュオッ!!!
少年「――は、外れた!?」
羊「嘘つき対決……どうやら今度は私に軍配が上がったようですねえ!」
少年の“脳を破壊されたフリ”は見抜かれていた。
羊「あの世で閻魔様に舌を抜いてもらうがいい!」
少年「くっ……!」
ドゴォッ!!!
羊の強烈な一撃を喰らったのは――
白狼「ぐふっ……!」
羊「なに!?」
少年「お、狼!?」
白狼「ぐっ……なんという重さ……」ドサッ…
少年「狼!? どうして!? なんでぼくをかばったの!? 手助けしないっていったのに!」
白狼「どうやら……お前の嘘つきが、我にもうつってしまったらしい……」
少年「狼……!」
白狼「これを受け取れ……」ボトッ
少年「!」
白狼「お前と過ごした数時間……悪くなかった……」ガクッ…
少年「狼ィ~~~~~ッ!!!」
少年「“死不”……いくぞ!!!」
羊「ふん、怒りでパワーアップしたつもりですか? なんと時代錯誤な……」
羊「いくら怒ったところで、あなたの攻撃は私には通じないのですよ」
少年「うわああああああああああ!!!」
グサァッ!
少年の突きが、羊の胸部にめり込んだ。
羊「この毛皮がある限り……」
羊「――!?」
羊「グハッ! ……バカな、なぜ!? なぜ私がダメージを……!? 毛皮がある、のに……」
少年「狼はね、自分の牙をぼくに託してくれたんだよ」
少年「だから、毛皮を貫いてお前にダメージを与えることができた!」
羊「牙だとぉ……? あのクソ犬、余計なマネを……!」
羊「俺は“死不(シープ)”だ! 不死身の羊だ! ライオンにもゾウにもシャチにも勝ってきた!」
羊「てめえ如きクソガキに……やられるかァァァ!!!」グオオオッ
少年「いくよ……狼!」ギュッ…
少年「ハァッ!!!」
ズドォッ!!!
少年の突きは白狼の牙もろとも羊の心臓を貫いた。
――――
――
少年「狼……やったよ」
少年「ぼく、勝ったよ……!」
少年「でも、君は……」
白狼「……よくやった」
少年「え!? ……生きてたの!?」
白狼「まぁな……嘘つき初心者にしては上手い死んだフリだったろう?」
少年「んもう……狼のバカーッ!」ポカポカッ
白狼「痛い痛い! ホントに死んでしまう!」
少年「へへ……ごめん」
白狼「しかし、本当に“死不”を倒してしまうとはな……驚いたよ」
少年「君のおかげだよ。ぼく一人じゃ倒せなかった」
少年「今日からぼくたち……友達だ!」ニコッ
白狼「……うむ」ニッ
戦いの後――
メェ~…… メェ~……
少年「おーい、白狼! ぼくは買い物に行ってくるから、留守は任せたよ!」
白狼「任せておけ。お前の羊は我らが守る」
狼A「ガルルッ!」シャキンッ
狼B「グルルッ!」シャキンッ
狼C「ウオォ~ン!」シャキンッ
少年「じゃ、行ってきま~す!」
白狼「行ってらっしゃい!」
村人A「あの子……まさかあの“死不”を仕留めて、狼のボスを仲間にしちゃうなんてな!」
村人B「ああ……ただの嘘つきじゃなかったんだな」
村人C「これからはあの子のことを尊敬を込めて、“狼少年”と呼ぶことにしよう!」
― 終 ―
いいオチだわ
乙
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